忘れ音 

最後の一匹


季節を過ぎて泣く虫の音のことを忘れ音といいます


~~きりぎりす 忘れ音に啼く 炬燵哉 ~ (芭蕉)


昔は、蟋蟀(こおろぎ)のことを、螽斯(きりぎりす)、螽斯のことを


機織(はたおり)と呼びました。そして鳴く虫の総称として


きりぎりすといっていたようです


蟋蟀も螽斯も、語源は鳴き声からだと言われますが、忘れ音になると


「コロコロ」とか、「キリキリ」とは聞こえません


「ヒョロヒョロ・・・」と、か細く、弱弱しく、悲しげです。


私たちは、見送り、見送られながら、果てしない生命の営みを続けてきました


この忘れ音の主が最後の一匹だとしたら、その寂しさは、はかりしれません。


人の生命の営みに、心から感謝したい気持です。